最近のPCは物理インターフェイスを剃り落としすぎて良くないですね。MacやSurfaceがものすごく悪い例です。他方で、物理インターフェイスだったものをワイヤレスに置き換えるということ自体は盛んに行われています。
今回はその中でも、いわゆる映像や音声周りのワイヤレス転送について話してまいりましょう。
AirPlay
今回は、"映像や音声"のワイヤレス伝送についてお話してまいりますが、やはり技術的に面白いのはよりリッチなデータである映像の方なので、そっちが中心になるかもしれませんね。
そもそも、ワイヤレスでメディアを再生するという技術について、盛んに開発を行っていたのはAppleです。昔からiTunesの音源をAirMac経由で音楽を再生する「AirTune」という機能がありました。
そのAirTuneは現在に至るまでに「AirPlay」へと形を変えています。AirPlayでは音楽だけでなく映像出力にも対応。MacやiPhone、iPadの画面ミラーリングや、Macの画面拡張などをAirPlay経由で行えるという、非常に面白い技術です。
AirPlayはAppleが開発した映像伝送のプロトコルです。実際のところ、クローズドな技術なので具体的にどのような技術を用いているのかという点については明らかになっていませんが、Wi-Fiを使っていることは確かです。Appleの場合、AirDropなどの機能についてもWi-Fiを用いて通信しており、例えばWi-Fi 6に対応したデバイス同士でAirDropをすると、Wi-Fi 5の環境よりも高速になる・・・なんてこともなくはないのです。
AirPlayプロトコルは、実際にmacOSやiOSの機能拡張に用いられると考えられており、例えばMacのSideCarや、iPhoneミラーリングの機能はAirPlay技術がベースになっていることでしょう。
ちなみにWi-Fiは、無線規格の中でもな非常に大きな帯域を持っており、Wi-Fi 7なんかだと理論値で46Gbpsですから、実効値でも10Gbps前後とかなり大きな帯域を有しています。映像転送においては遅延も重要ですが、Wi-Fiも低遅延を謳って進化を続けていますので、日々改善されています。
リバースエンジニアリングの情報を基に、AirPlayの上位レイヤーに目を向けてみますと、使われている技術はRTP(Real-time Transport Protocol)や制御用のRTSP、画像や動画の再生にはHTTPなどが用いられています。一部AirMac用の認証など、AirPlay独特の機能というのも見られないわけではないですが、大体は後述するMiracastと同じ技術を用いています(同じ実装ではありませんが)。
AirPlayは、2017年に登場した「AirPlay 2」よりサードパーティ向けにも公開されていますが、残念ながらAirPlayの仕様が広く公開されることはなく、現在AirPlayの仕様を知ろうとするとリバースエンジニアリングで得られた「Unofficial」と名前のついたドキュメントが出てきます。前述の上位レイヤーの話もそのドキュメントをベースにお話しましたが、AirPlay自体はAppleの特許技術も含まれていると考えられるため、これを基になにかを開発するのは、すこしグレーな気もします。
Introduction - Unofficial AirPlay Specification対AirPlay陣営
Wi-Fiを通じて映像を転送するという技術については、Apple以外からも一定の需要があります。AppleのAirPlayに対抗するため、Wi-Fi Allianceによって「Miracast」という新しいプロトコルが開発されました。
AirPlayがクローズドな技術であるのに対して、こちらはオープンな技術であり、明らかな対抗姿勢を見せています。Miracastは現在に至るまでにAndroidとWindowsがサポートしており、ハードウェアでもQualcommやIntel、NVIDIA、MediaTek等といった名だたるチップベンダー、ハードベンダーが賛意を示しています。
Appleは当然Miracastをサポートしておらず、Miracastの競合としてAirPlayを成長させる様になりました。AirPlay 2では、AirPlayサーバー機能がサードパーティに開放されたことで、iPhoneやMacから直接、AirPlay対応のテレビにミラーリングすることができるようになりました。この部分は競合の話でビジネスの話になりますね。
ちなみに、Miracastの技術はわかりやすく、例えばアプリケーション層の伝送プロトコルにはRTP、制御にはRTSP、物理層にはもちろんWi-Fiを用い、映像や音声はH.264やLPCM、AACといった標準的な技術の組み合わせを提供しています。AirPlayもそうですが、流石に非圧縮劣化なしで映像を転送する技術は確率されておらず、どの場合も非可逆的な圧縮が発生することになります。これはワイヤレスでそこそこリッチなデータを扱う上での運命といいますか。今後の技術革新に期待ですね。
今後
MiracastもAirPlayもプロトコルであるとともにある種の規格となっています。AirPlayに対抗するためであったとはいえ、規格が乱立するのは好ましくありません。
他方で、Appleのエコシステム技術を開放しろ!という主張がおもに欧州を中心に盛り上がっています。いい例がAirDropですね。
ということを踏まえると、今後AirPlayがやり玉に挙げられる可能性もなくはないでしょう。そうなったとき、AirPlayとMiracastがどのような道筋をたどるのかというのは非常に気になるところではあります。
あと、RTPを使えば基本的にMiracastに準拠しなくても映像伝送自体は可能だったりします。その点で言えば、Miracastの存在感の薄さが少しばかり心配になりますね。